何回やっても同じ漢字を間違えるのはナゼ?

うちの子、また同じところで間違えてる…それってなぜ?
「この漢字、昨日も間違えたよね…?」
お子さんのノートを見ながら、そんな風にため息をついたことはありませんか?何度も教えているのに、同じ漢字を何度も何度も間違えてしまう。
それは決して、お子さんが「やる気がない」わけでも、「ふざけている」わけでもありません。実はワーキングメモリーという脳の機能が関係している可能性があります。今回は、発達障害やADHDの傾向を持つお子さんに多く見られるこの特性について解説していきます。
どうして何度も同じ漢字を間違えるの?
間違えるのは「やる気がないから」じゃない
親としては、「何度も練習したのに…」とガッカリする気持ちも当然ありますよね。でも、繰り返す間違いの多くは「やる気」や「努力不足」の問題ではありません。これは、脳の記憶や処理のしかたに原因があることが多いとされています。
見えていないのは“今ここ”の情報かも
何度も教えてもミスが直らない子は「今、目の前にある情報」を保持するのが苦手な可能性が高いのです。たとえば、ノートに書くときに「えっと、さっきの漢字どうだったかな?」と思い出す前に手が動いてしまったりします。
「わかってるのにできない」は脳の特性?
「理解してるはずなのに、なぜ間違えるの?」と感じるとき、そこにはワーキングメモリーの弱さが隠れていることがあります。「覚える」と「使う」を同時に行うこの機能のバランスが崩れていたり、上手く働いていないことが、学習に大きな影響を与えていることがあります。
“ワーキングメモリー”ってなに?
脳の「作業机」のような働き
ワーキングメモリーとは「一時的に覚えた情報を、同時に使う力」のことです。これは、よく「脳の作業机」ともたとえられます。この机が広ければ広いほど、たくさんの情報を並べて効率よく作業ができます。でも机が小さいと、すぐに物が落ちてしまったり、手順が混乱してしまいやすいということです。
情報を一時的に記憶しながら使う力
たとえば、黒板を見て漢字を書き写す。「さっき習ったこの部分、今の問題で使う」「1分後に聞かれる内容を頭に残しておく」など、日常でもよくある場面ではないでしょうか。こうした「覚えながら動く場面」に使われているのが、ワーキングメモリーです。
学習・指示・会話…日常のあらゆる場面で使われている
実は、日常生活のあちこちでこの機能は使われています。会話の内容を理解する、料理を手伝う、複数の指示をこなす…。覚えておく+考えて使うを同時に行うすべてに関わっているのです。
発達障害とワーキングメモリーの関係
ADHDの子はワーキングメモリーが弱いことが多い
ADHDや発達障害のあるお子さんの中には、このワーキングメモリーが弱いケースが多くあります。たとえば、「3つの指示を出したら1つしか覚えていない」「昨日習ったことが、翌日にはゼロから」ということもよくあります。
「話を聞いてない」のではなく、保持できない
「聞いてなかったの?」と感じるとき、本当は「聞いていたけど覚えていられなかった」だけかもしれません。聞いた瞬間に別の情報が入ってきたり、手を動かしたりしているうちに、すっと抜けてしまうことがあります。けっして、「話を聞いてない」わけではないことを意識してあげましょう。
見えにくいけれど、とても大切な“学びの土台”
ワーキングメモリーは目に見えませんが、「学びの土台」となる大事な機能です。この土台がぐらついていると、「わかっているはずのことが、なぜかできない」といった状態につながりやすくなります。
同じ間違いを繰り返す子への接し方
何度も怒るのは逆効果
つい「なんでまた同じことを…!」と言ってしまいがちですが、これは子どもの自己肯定感を下げることにもつながります。本人も「また間違えた…」と落ち込んでいる可能性が高いので、あまり怒らないようにしましょう。
「漢字のパーツ」ではなく「意味・ストーリー」で覚える
ワーキングメモリーに負担をかけない学習法として「意味や物語で覚える」方法があります。たとえば「時」は「日(太陽)と寺(お寺)で、昔はお寺で時間を知らせた」など、イメージで結びつけることで記憶が定着しやすくなります。
「覚え方」ではなく「仕組みの理解」
書いて覚えるだけでなく、どこでミスをしやすいのか、なぜその形になるのかを一緒に言葉で確認してあげると、理解が深まり覚えやすくなります。
ワーキングメモリーを伸ばす家庭での工夫
「書いて覚える」より「視覚+動作」で記憶に定着
ワーキングメモリーをサポートするには、視覚や動作のチカラを借りるのが効果的です。たとえば、カラーカードで部首を分ける、空書き(手で空中に書く)を取り入れる、ジェスチャーを交えて覚えるなど、「体を使った学習」は脳に残りやすく、覚えやすいです。
1ステップずつ、指示は短く
「◯◯して、△△して、そのあと□□してね」という長い指示は、ワーキングメモリーの負荷が大きすぎます。1つずつ、短く、確認しながら進めるだけでも大きな変化があります。
カード・ゲーム・歌など“遊びの中で”鍛える方法
神経衰弱(記憶力を使う)、しりとり(保持+操作のトレーニング)、音読+即質問ゲーム(記憶→思考→言語化)など、遊びの中で自然に鍛える方法は家庭でできる楽しいトレーニングですので、ぜひ取り入れてみてください。
同じ間違いには必ず“理由”がある
何度やっても同じ漢字を間違える。それは、「努力不足」でも「いい加減」でもなく、脳のはたらきの特性なのかもしれません。原因がわかれば、解決の糸口も見つかります。ワーキングメモリーという見えない力を理解することが、お子さんの学習を支える大きな一歩です。怒ったり、責めたりする前に、「この子の机の広さはどれくらいかな?」と、そっと心を寄せてみてください。きっと、お子さんの世界が少しずつ変わっていきますよ。